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こんな宿酔の夜は波打際で嘔吐したい

その他

 

僕は失望した。あらゆる現象に。性懲りも無く、またやってくる春に。忘れられていく薄情な時間の軽さに。束の間の快楽も、すぐに苦悩に変わる。喉が渇いた。ビールが飲みたい。ほらね。逃げ出してしまおう。こんな宇宙。ひどいよ。おかしいじゃないか。どこか抜け道があるはず。必ず。

ネマティックの隙間から電脳都市に潜り込むと、カチャカチャと軽快な旋律と心臓に悪そうな重低音が一定のリズムで鳴り響いていて、近未来的に着飾ったアルゴスの子供達が踊り狂っていた。僕はその狂気に圧倒されて、そこにいた背広姿の大柄な助っ人外国人にマシュマロを投げつけた。ホワイトデーにマシュマロをあげるという事は「あなたの事が嫌い」という事だと誰かが言っていた。そんな事知りませんでした。僕はマシュマロが好きです。僕は好きな人に好きなマシュマロをあげます。

大きな大きなマシュマロを口いっぱいに頬張ったまま早春の草原を駆け抜ける君の着ている白いワンピースが陽光に透けている。僕は幼少期に毎日見ていた実家の寝室の障子戸から透ける月光と街灯の仄かな光を思い出した。その光を初めて美しいと思った夜、僕は短い夢をみた。

あの夜、夢に出てきた綺麗な虹色の鳥が、どんなモーツァルトよりも美しい旋律で鳴いた。しかし、夢から醒めると、そのメロディをすっかり忘れてしまっていた。だから僕はあの旋律を再現する為にピアノを弾き続けた。ペンタトニックの、簡素な旋律だった筈なのに、全然思い出せない。ああでもない、こうでもないと、僕は狂ったようにピアノを鳴らし続ける。

結果を急いでもろくな事はない。山、川、海。あらゆる自然の美しさと秩序は一朝一夕で出来たものではない。しかもまだ、完成していない。人間のたった100年程の寿命で、何が出来るって言うんだ。

完璧主義を直そうなんて考えが完璧主義的。その完璧主義を利用して何か素晴らしいものを創作すればいいのに。短所も使ってしまえば便利な道具。君の厨二病を炸裂させてください。

ネマティックの隙間から声がする。ひょうひょうとした、あいつの声だ。「金も無いし、家族も友達も恋人も居ないよ。だからなんなの?」

ネマティックの隙間から電脳都市に潜り込むと、カチャカチャと耳障りな電子音と心臓に悪そうな重低音が一定のBPMで鳴り響いていて、近未来的に着飾ったアルゴスの娘達がキャーキャー喚きながら修学旅行の枕投げみたいなテンションでマカロンを投げ合っている。無数のカラフルなマカロンと甲高い喚き声が宙空をレーザービームのように飛び交っている。僕はその狂気に圧倒されて、耳を塞いでメトロに乗り込み、電脳都市の深層へと突き進んだ。最奥部まで進むと、デザイナーズマンションの一室のような無機質なモノトーンの部屋がある。その内部では、ファッションのように孤独を纏った優秀な金髪の人工知能が、即席の旋律を街にばら撒いて、メランコリアを叩き売りしている。こいつを止めれば、この電脳都市の喧しい音楽は鳴り止む。

「そんなインスタントな音楽を量産して子供達を騙し続けたって、彼等の虚しい青春の火を燃やす燃料にされるだけで、なんにも残らない、消費されて、棄てられるだけじゃないか。それに、歌姫だなんて呼ばれて祭り上げられて、無表情で歌い踊らされる彼女はまるで操り人形じゃないか」

しかし僕は気付いてしまった。彼もまた、哀れな操り人形である事に。彼は感情を失う為に寝る間も惜しんで即席の旋律を量産し続けているのだ。

踊っている最中、踊っている自分を眺めているもう一人の自分に気がつく事があるんだ。そいつが黒幕だ。しかしそいつには何を言っても暖簾に腕押しで、ただこちらを無表情で眺めているだけなんだ。

駄目だ、またあいつだ。あいつが見ている。すべてが無意味に思えてくる。当たり前だよ。そう、すべては無意味だ。意味を求めるから苦しいんだ。無意味だからやるんだ。なんでもいい。なんでも、無意味なんだから。みんな無意味なのに真面目くさってやってるんだぜ。面白いよね。すべて無意味なんだから、何やっても面白い。それが困難であるほど面白いじゃないか。だって無意味なのにわざわざやってるんだから。この世の一切はギャグだ。渾身のギャグだ。それはシュールレアリズムだ。もう少し、無意味に生きてみようぜ。どうせ無意味なんだから。

 

 

エイワ ホワイトマシュマロ 110g×12袋

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