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ポケットの中の月

ポケットの中の月


ある夕方
お月様がポケットの中へ自分を入れて歩いていた
坂道で靴のひもがとけた
結ぼうとしてうつ向くと
ポケットからお月様がころがり出て
俄雨にぬれたアスファルトの上をころころころころとどこまでもころがって行った
お月様は追っかけたが
お月様は加速度でころんでゆくので
お月様とお月様との間隔が次第に遠くなった
こうしてお月様はズーと下方の青い靄の中へ自分を見失ってしまった

 


稲垣足穂一千一秒物語」より

 

一千一秒物語 (新潮文庫)

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